平成16年度通常総会開催
 4月25日(日)、札幌コンベンションセンター207会議室において、平成16年度通 常総会を開催しました。当日は、「草原の野鳥たち」と題し、北海道東海大学非常勤講師で、豊平川ウォッチャーズ代表の竹中万紀子先生に、札幌周辺で見られる草原性の野鳥を紹介いただきながら、これらの鳥の生息環境である草原の現状について報告していただきました。
 講演に続いては、きたネット会員の活動報告として、高橋慎さんに、栗山オオムラサキの会の活動について、ご紹介いただきました。
 通常総会では、昨年度の事業実績と決算、今年度の事業計画と予算案、会則の変更、役員の補填の各議案が審議され、可決されました。

会員活動報告を行う
栗山オオムラサキの会、高橋慎さん


草原の野鳥たち
[総会同時開催]竹中万紀子先生講演会

  私は、鳥類生態学が専門で、鳥の観察、行動、社会、生態を見てきました。現在は主に、コムクドリ、ムクドリ、カラス類、草原の野鳥の一種であるシマアオジという鳥を中心に調査、研究をしています。今日は、草原の野鳥について話します。

 まず、草原という場所について考えてみます。草原は、木が一本もはえておらず、比較的丈の低い草がびっしり生えている場所で、草食動物からの被食、極端な寒さや乾燥、洪水や浸水といった、太く硬い幹を持つ木が生えづらい要因によって維持されます。草原の維持には浸水が重要な要因です。生態学では「撹乱(かくらん)」といいますが、これがないと草地は遷移が進み、森林に変わります。

 最近は、草原が減少しています。札幌市では、森林が全面積の60%を占めますが、自然草原、2次草原、牧草地全部を合わせても、全面積の17%しかありません。自然草原はわずか2%です。草原の減少の理由は、平坦地で人間が利用しやすいことと、草原の重要性や機能の認知度が低いことです。草原の生産量は成熟した森林よりも高く、二酸化炭素の吸収量も多いため、草原の重要性は森林に劣りません。

 北海道では、草原と農業は深く関係しています。過去の農耕地利用のデータを見ると、畑作や稲作よりも、80年代からの牧草地の増加が、北海道全域の作付面積の増加に寄与しています。つまり、草原である牧草地は減っておらず、むしろ地域によっては増えているのです。

 それでは、北海道の草原で繁殖する鳥を見てみます。まず、草原性の鳥類を3つに分類しました。

分類1
  草原を餌場とし、草原または、草原に隣接する
あまり背の高くない木に巣を作るもの
・・・ノゴマ、ベニマシコ、アリスイ、モズ、アカモズ、トビなど
 

分類2
  草原で繁殖し餌を取るが、草原の辺縁部
(ヨシの高い所や、草原脇の防風林の林床等)で繁殖するもの
・・・コヨシキリ、オオヨシキリなど
 

分類3
  餌場も草原の真ん中で、地面の上に巣を作り地上で営巣するもの
・・・ホオアカ、シマアオジなど
 

草原性の野鳥たち
左から 1.シマオアジ 2.ノゴマ 3.アカモズ

 これらの草原性の鳥は、主に北海道の西側、石狩や空知地方に出現する種で22種ほどいます。レッドデータブック(以下RDB)に記載されている草原性の鳥類を見ると、種数は少ないのですが、草原性の鳥類の全種数のうちの割合は、森林性の鳥類のそれよりも2倍以上になります。しかし、草原よりは、森林の保護・保全の機運が高くなっています。前述の、広大な草原が必要な種(分類1)では、4種がRDBに記載されていて、割合から行くと36.4%にものぼり、3羽に1羽が絶滅の危機に瀕している現状です。草原性の鳥は生態系ピラミッドでも下の方に位 置し、本来、多数いなくてはなりませんが、その数の減少は、猛禽類の減少よりも深刻です。

 そこで重要になってくるのが、草原としての牧草地です。草原性の鳥は牧草地にも誘引され、繁殖地として利用します。しかし牧草地では、牧草刈りや放牧など、鳥の繁殖を妨げる要因があります。特に、60年代の穂が出てから牧草を刈取る「出穂後刈取り」が主流だった頃は、鳥たちが繁殖期を終えてからの刈取りでしたが、70年代以降の機械的な「出穂前刈取り」では、ホオアカ、コヨシキリ、シマアオジなどが、ちょうど子育てをしている6月半ば頃の事に牧草刈りを行います。それでも、ホオアカは繁殖期が始まるのが少し早いので生き残ることができ、刈取られた後の2番草が生えて刈取られる間に繁殖をしなおすことができますし、コヨシキリは辺縁部でも繁殖できますが、RDBで準絶滅危惧種に指定されているシマアオジは、一度刈取られた牧草地では繁殖しません。私たちは、1999年からシマアオジの保護のために、巣を見つけると縄で囲んで農家の人に刈取らないようお願いしたり、刈取りを行なわない場所を作ってもらう活動を始めました。年々、繁殖成功数は増え、少し手を加えれば、かなり数の減った鳥でも、その数を増やせるのではないかと思います。また、この成功から、河川敷よりも牧草地がシマアオジの繁殖適地なのではないかと思え、草原性鳥類の生息地として、牧草地を見直せないかと考えています。草原性の鳥類を守ることで草原に虫や草が戻ってきます。また、草原性の鳥が増えれば、彼らが害虫を駆除するメリットもあります。今、自然に優しい農業が注目されていますが、これからも、もっと自然と共存するシステムを模索していかなければいけないと思います。

 最後になりますが、都市部でも、草原は鳥たちに重要です。北海道の草原性の鳥は100%渡り鳥ですが、その渡りのルートには、羽を休めたりエネルギーを補給する草原が必要です。大都市でも、ある程度まとまった草原があれば、草原性鳥類が渡りのときに利用するだけではなく、繁殖も期待できます。問題はパークゴルフ場等の施設。ただでさえ築堤の間が狭い都市部の河川敷は、公園利用者が自由に使える場所すらないですし、動物にとっても、餌をとることも天敵から身を守ることもできない「みどりの砂漠」です。

 一方、一見荒れたように見える草地には、鳥の餌となるバッタやキリギリスが鳴いています。ですから、本当の豊かさとは何かを、多くの人に知っていただきたいのです。狭い草地でも、残せば、ノビタキなど、様々な生き物が暮らせます。


竹中万紀子[たけなかまきこ]

専門:鳥類生態学
東京生まれ。米国Sarah Lawrence College卒。
筑波大学大学院生物科学系単位取得。
北海道東海大学非常勤講師/豊平川ウォッチャーズ代表/北海道新聞社野生生物基金評議員/北海道自然保護 協会理事/くさはらネットワーク会員。


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